2021/05/07 投稿

健康診断と癌検診について知っておいてほしいこと

職場で受ける健康診断は大きく2種類あります。

1つは法律で行われることが決められている健康診断です。
これも2種類にわけられてどこの会社でも行う定期健康診断と、もう1つは化学物質や粉じんがひどい職場で行われる特殊健康診断です。
この2つを合わせて法定健康診断と呼ばれ、項目も決まっていますし、一人でも社員を雇っている会社は必ず行わなければいけません。

そして、ここは勘違いしている方も多いのですが労働者側にも受診する義務があります。

もう1つは会社が追加で行う健康診断です。
人間ドックなどもこの中に含まれます。
こちらのほうは必ずしも受診する義務はありません。

法定健康診断

法定健康診断の結果を見て会社は、その方が通常に働けるか、あるいは特殊な配慮が必要か等を決めます。
逆に言うと法定健康診断を労働者が受けなかった場合、厳しい会社だと残業禁止とか就業禁止とかの措置を取ることすら考えられます(そんな会社は少ないですが)。
これを就業判定と言います。
会社は社員を雇っている以上、安全に働かせる義務があり(安全配慮義務と言います)、それが果たせないからです。
その他、病気が疑われる場合、受診推奨、肥満などの場合保健指導が推奨されることがあります。

健康診断は受けただけでは健康にはなりません。
異常があれば受診や、保健指導をうけましょう。
ただし保健師と契約していない会社などでは保健指導は行われていないことがほとんどですので自ら生活習慣の改善に努力しましょう。

特に多いのは中年以降の男性の場合は、喫煙、肥満、睡眠不足、運動不足、過多飲酒などで、若年女性の場合はやせすぎと、鉄が足りないことによる貧血です。

また健康診断では自覚症状があれば申告することになっているのですが、ひどい生理痛についてはほとんど申告されていません。
最近は低用量ピルといって生理痛を非常に軽減できる薬もありますので心当たりのある方は是非一度婦人科受診をお勧めします。

70歳までの就労機会努力義務化について

今までは定年は60歳でした。
2025年には65歳までは希望する方全員を雇用することが企業に義務化されます。
そして2021年から70歳まで希望する全員に就労機会(必ずしも雇用とは限らない)を提供することが努力義務となりました。
社会の高齢化はますます進みますしおそらくこれも企業の義務になっていくのだと思います。

さて、年齢を重ねるたびに1年あたり大病したり、命を落としたりするリスクは増えます。
30歳の社員は多分来年も元気に働いていますが、65歳の社員が全員来年も元気で働けるかというかというとそうでもないのです。

そうするとこれからは若いうちからの健康管理というのが非常に重要になってきます。
例えば心筋梗塞といって心臓の血管が急につまって、命にかかわる病気があります。
この病気は年齢が高くなればかかる危険が増えるのですが、それだけでなく、喫煙、糖尿病、LDLコレステロールが高いこと、高血圧などが危険を増やします。
20代のうちは元気でもこれらをコントロールしておかないとそのダメージが60歳の頃急に心筋梗塞につながるのです。

これを防ぐためには、若いうちから、禁煙、体重のコントロール(最大でも20歳の頃の体重+10㎏まで)、定期的な運動(週に3時間程度の軽く汗をかく運動)を習慣づけることなどが大事です。
特に若いうちは仕事が楽しく、つい身体のことはおろそかになりがちですが、あなたが一番働き盛りの時に、あるいはそれを過ぎても健康に働くためにこれらは重要です。

人間ドック 特に癌検診について

人間ドックで癌の健康診断を行っているところも多いと思います。
日本人の死因の一位は癌です。
特に若い人に多い癌としては女性における子宮頸癌、乳癌があります。
30歳以上の子宮頸癌検診、40歳以上の乳癌検診はそれら癌による死亡のリスクを減らすことは知られており受けることを強く勧めます。

一方生活の欧米化に伴い男女問わず大腸癌が増えています。
この検診のためによく行われるのが便潜血検査です。
便の中にわずかに血が混じっているかどうかについて調べる検査です。
特に苦痛もなく費用も安いため非常によく行われています。
ただ産業医としてみていて便潜血陽性という結果が出たにもかかわらず放置している方が実に多いのが気になっています。
乳癌検診や、子宮癌検診の結果を無視する人はほとんど見ないのですが大腸癌検診は無視する人が多い。
検査は受けただけでは健康にはなりません。
便潜血が陽性である方は初期の大腸癌が隠れている可能性があります。
初期であれば大きな手術をする必要はなく内視鏡治療だけで治癒しますので便潜血陽性と出た方は必ず消化器内科を受診しましょう。

以前は胃癌が非常に多かったのですが最近減ってきています。
胃癌、あるいはその前段階ともいえるピロリ菌による萎縮性胃炎を見つけるのには胃カメラ(上部消化管内視鏡)が一番いいと考えています。
ただ費用や人員の関係からバリウム検査を行っているところも多いです。
いずれにせよ異常が指摘されたら再度消化器内科を受診して今後の治療や検査方針を決めましょう。

さらに最近増えているのが肺癌です。
肺癌を早期発見するのは非常に難しいのです。
定期健康診断で胸部X線写真を撮りますが、あれは肺癌を見つけるためのものではなく元々結核を発見するために撮るようになったものです。
中年以上の男性で喫煙量の多い方には胸部X線に加え、痰を取ってその中に癌を疑う細胞がないかどうかを調べることが有効であることが知られてますが、これだけでは見落とされる癌が非常に多いのです。

最近被ばく量の少ない低線量CTの有用性が言われており、研究が進んでいますがどのような対象者に行うべきかはまだはっきりした結果は出ていません(55歳以上で喫煙量の多い人には有効であることが知られています)。

前立腺癌の血液検査でPSAというものを調べることがあります。
これが高値と出た時にどうするべきかは非常に難しい問題で、泌尿器科医の間でも必ずしもベストの方法に対し一致した意見があるわけではありません。
というのは、多くの前立腺癌は進行が遅く、前立腺癌をかかえたまま天寿を全うする方が多いこと、また検査や治療等にそれなりの副作用があることなどからです。
PSA高値と出た場合は信頼できる泌尿器科医とよく相談しましょう。

 

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